パリ2024オリンピック レスリング女子76キログラム級金メダリスト 鏡(かがみ) 優翔(ゆうか)さん
自分がどうありたいかは、自分で決める。
パリ2024オリンピックで日本のメダルラッシュに沸いた、昨年の夏。中でも山形市出身の鏡 優翔選手は、レスリング女子の最重量級で日本勢史上初の金メダルを獲得。初出場ながらも見事に快挙を成し遂げました。今回は、鏡選手の強さの理由と魅力的なお人柄に迫るべく、フリーアナウンサーの山内(やまのうち) 智香子(ちかこ)さんによるインタビュー形式でお届けします。
山内智香子(以下、山内):このたびはオリンピックでの金メダル獲得ならびに山形市スポーツ栄誉賞の受賞、本当におめでとうございます。
鏡 優翔さん(以下、鏡選手):ありがとうございます。このような名誉ある賞をいただけるのは本当にうれしいです。オリンピックが終わってから、いろいろな場所に行ったり人と会ったりという日々が続いていましたが、山形に戻ってくると、人や土地柄の温かさをより感じてホッとしますね。
山内:ご滞在中は少しでもゆっくりできるといいですね。それでは早速ですが、まずはレスリングを始められたきっかけからお伺いできればと思います。
鏡選手:元々は父が山形でレスリングをしていたんですけど、その影響で兄が先にレスリングを始めたんです。ある日、兄が所属しているレスリングチームの仲間の家に行ったときに、本物のメダルが飾られているのを初めて見て、これが欲しい!と思って私も始めたのがきっかけです。ただ、いざやってみると、体がぶつかるのは痛いし、激しいスポーツは苦手な方だったので、正直あまり良いイメージは持てませんでした。
山内:そこから徐々に、気持ちも変化していったのでしょうか。
鏡選手:はい。やるからには勝ちたいという気持ちが強くて、大会に出て勝てるようになると楽しいと思えるようになり、そこから打ち込むようになりました。今となっては、私らしさを一番出せるのがレスリングなのかなと思えるぐらい、自分にとってなくてはならないものですね。
山内:レスリングと並行して、他にもいくつかスポーツをされていたんですよね。
鏡選手:小学校では陸上とラグビーをしていて、中学校では2年生まで陸上部に入っていました。レスリングの練習が週2回しかなかったので、陸上に関しては体力をつけるため、ラグビーはタックルを学ぶためという理由からです。
夢は「オリンピックの金メダル」
続けることで楽しさが見えてきた
山内:オリンピックへの憧れは、幼い頃からありましたか?
鏡選手:オリンピックで金メダルを取ることは、小学1年生の頃から目標に掲げていました。私の場合はものすごく単純で、レスリングの大きな大会で金メダルを取りたいと思っていて、それがオリンピックだったんです。当時からずっと書き続けているノートがあるんですけど、一番上には必ず「夢、オリンピックで金メダルを取る」と書いていました。
山内:まさにその夢を実現され、金メダルをつかんだわけですね。ご自身が手にされた金メダルの重みというのは、どんなふうに感じますか。
鏡選手:さまざまな重みを感じますね。小学校高学年の頃、吉田(よしだ) 沙保里(さおり)選手や伊調(いちょう) 馨(かおり)選手の金メダルを実際に持たせてもらったことがあるのですが、今、自分が同じように金メダルを手にしていることに、いまだに実感が湧かないというのが正直な気持ちです。きっとこの感覚は、これからも続くんだろうなと。オリンピックの金メダルというのは、そのぐらい憧れのものなので。
山内:準決勝では逆転、決勝も同点からの最後はどうなるか……!という状況でしたが、当時の心境はいかがでしたか。
鏡選手:必ずどこかでタックルを決められると確信していたので、焦りや不安はありませんでした。試合前に相手と向き合った瞬間、私の方が練習量も準備も負けていないと感じましたし、ここで負けるわけがないと思っていました。周りの人たちはドキドキしていたかもしれませんが(笑)。
山内:そんな闘いを終えた後、勝利の喜びとともにおじいさまの遺影を高く掲げていらっしゃいました。あのときはどんなお気持ちだったのでしょうか。
鏡選手:私の夢を一番応援してくれていたのが祖父なので、きっと天国で喜んでくれているだろうなと思いました。オリンピックの会場では、祖父の存在を感じながら試合に臨みました。
山内:オリンピックでの試合は、鏡選手のスピードを生かした「高速タックル」などの持ち味が出た闘いでしたが、やはりそこに磨きをかけてこられたのでしょうか。
鏡選手:そうですね。レスリングの闘い方の特徴として、日本人選手には繊細さがあり、海外選手には力強さがあります。私のスタイルは、海外選手と闘うときに相性が良いだろうとは思っていましたが、日本人は重量級で勝てないといわれ続けてきた壁を壊したい、絶対に負けたくないという強い思いを持ってトレーニングに励んでいました。
自分の素直な気持ちを大切に
目標があれば全てが糧になる
山内:オリンピックでは「カワイイ」と書かれたマウスピースや「ひまわり」が話題でした。本日、お持ちになっているすてきなポーチもひまわり柄ですね。
鏡選手:このポーチは母の手作りなんです。ひまわりって、いつも太陽に向かって咲くじゃないですか。私もそんなふうにポジティブな人になりたいと思って、そこから好きになったんです。
「カワイイ」っていう言葉は、自分がカワイイって思ったらそれでいいと思っているんです。今日のビジュ(アル)いいな、みたいな感じで(笑)。他人の評価じゃなくて、自分の意思で自分を褒めることは大事。そういう意味での「カワイイ」なんです。
山内:大いに納得です。今は子どもたちと接する機会も多いと思いますが、自分らしい人生を歩んでいくためにはどんなことが必要だと伝えたいですか。
鏡選手:目標を持つことと、楽しむことが大切だと思います。最近は楽しむことに重きを置いている人の方が多い印象ですが、目標がないと達成したときの感情が曖昧になってしまいます。目標があると、自分の思いや考えも明確になるし、かなえられたときの喜びも、かなわなかったときの悔しさも、全部が糧になります。スポーツでも勉強でも、好きなことでもなんでも良いので、ぜひ自分なりの目標を持ってもらいたいですね。目標に向かって行動したことの結果は、後の自分にとって必要なことでもあるので、失敗を恐れずにどんどんチャレンジしてほしいです。
山形で過ごしながら思うこと
夢をかなえた後のこれから
山内:パリオリンピックを終えて、3年後のロサンゼルスや次なる目標についてはいかがですか。
鏡選手:ロスに向けて2連覇を期待していただけるのは、とてもありがたいことだと思っています。次に向けての気持ちも少しずつ固まりつつありますが、今はまだハッキリとした目標は言えません。自分で納得できる時期がきたら、皆さんにちゃんとお伝えしますね。私、絶対に有言実行したいタイプなので(笑)。
山内:山形にまつわるお話も伺いたいと思います。帰省したときに、どんなことを最初にしたいですか。
鏡選手:家族やいとこたちと一緒にごはんを食べることです。ただいつも、私が食べたいものよりも、みんなが私に食べさせたいものが先に出てくるんです(笑)。でもやっぱり、祖母のごはんは特別ですね。この前はお赤飯や炊き込みごはんを作ってくれました。
山内:山形の食べ物でいうと、何がお好きですか。
鏡選手:一番は、青菜漬けが好きです。あとは茄子漬けも。玉こんにゃく、芋煮、「ぬた」の団子も好きですね。好きなものはまだまだたくさんあります。
山内:最後に、パリオリンピックではもちろん、鏡選手を応援している山形市民の皆さんへのメッセージをお願いします。
鏡選手:オリンピックでは、本当にたくさんの応援をありがとうございました。皆さんからの応援はしっかり届いていましたし、それが私の支えにもなっていたので、心から感謝しています。この金メダルが、山形のレスリング界を盛り上げる一つのきっかけになればうれしいですし、これからも頑張っていきますので、引き続き応援をよろしくお願いします。
2025年、皆さんにとっても私にとっても、笑顔あふれる良い1年になりますようにと願っています。
2024年11月24日に開催された「山形市スポーツ栄誉賞授与式」と「令和6年度 山形市スポーツ懇談会」
冒頭のあいさつで、佐藤孝弘山形市長は鏡選手に「金メダル、輝いていますね。まさにひまわりのように見えますね」と述べた。
山形市スポーツ栄誉賞とは、オリンピックでのメダル獲得など競技スポーツで優秀な成績を収められた山形市出身選手に贈呈する賞であり、2010年バンクーバー冬季オリンピックで銅メダルを獲得された加藤条治選手以来、2人目の受賞となる。
2001年9月14日、山形市生まれ。小学校1年生の時に栃木県宇都宮市へ。全国少年少女選手権5度優勝。JOCエリートアカデミーへ進み、2017~19年にインターハイ3連覇を達成。2019年の全日本選抜選手権女子76kg級では2位。同年、全日本選手権では68キログラム級に階級を落として、東京2020オリンピックの代表入りを目指したが、初戦で敗れて代表切符獲得ならず。2020年全日本選手権では76キログラム級に戻して優勝。2021年の全日本選手権と2022年全日本選抜選手権で勝利し、世界選手権に初出場。同大会の女子76キログラム級で銅メダルを獲得。2023年世界選手権では女子76キログラム級で初の世界一となる。2024年パリ2024オリンピック女子76キログラム級で優勝。サントリービバレッジソリューション株式会社所属。
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