自然

#03 蔵王トレッキング

ひたいを寄せたくなる風景、かわる視線。

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#03 蔵王トレッキング

ひたいを寄せたくなる風景、
かわる視線。

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【短編エッセイ #03 蔵王トレッキング】

 同じルートを往復するドアトゥードアの毎日は、気が張っているだけ気付かないうちにいろんなものがわだかまる。そろそろ出てきたんですけど..自覚症状。

 せかつく日々を切り抜けて、ようやくお気に入りの山道具をガサゴソする。山形の友人がポストしていた“あの”景色、見てみたいなぁ..。そう、針路をとるのはいつもわたしの胸内だもの。ガイドブックなどあてにしない気ままな旅で脱皮をするのだ。

 列車が山々を縫うように滑り抜けていく。峠の向こうがわは、都会の電飾とは真逆な四季のビビッドが広がっていた。

 古代、ヤマトタケルの臣下を癒したという蔵王温泉は、いまもいたるところで硫黄泉がとうとうと湧いている。深みを増していく緑と相まって、むせかえるほどの濃密さ。湯を掬い、ひたいに寄せてスウーッと湯気を吸い込み、またとっぷりと湯にひたる。そんな極楽の繰りかえし。

 翌朝、“あの”景色を目指して乗り込んだロープウェイ。ふもとの温泉街から遥かな山々へと続くパノラマが目に映り、ひたいはガラスに寄りっぱなし。
 降り立った高原駅のどこからか視線を感じていると、目前の御堂から権現様が睨みをきかせていた。「何をお願いしようかなぁ」と、ふける時間が長くなりがちなわたしは、いまここにいる感謝だけを合掌に添えて、靴紐を締めなおし歩きはじめる。

 足もとにいる花弁や虫、葉脈にひたいを寄せると、視線は一気にワイドからマクロの世界へ。「ああ、これもひとつの世界なんだ」

地面に差し込んでくる木洩れ陽のコントラストが、道行く先を照らしているよう。すると、かすかに水打つ音が耳に入ってきた。“あの”不動滝だ。三本に分かれた白い滝のしぶきを、できるだけ近くで受けとめたい。

 エメラルドグリーンの水面をのぞくとイワナが悠々と尾びれをふっていたのは、独鈷を投げ入れて龍を沈めたといういわれのドッコ沼。スマホをかざすのも忘れて見入った束の間は、ハッとするほどの静寂。どれもがまた会いたい風景。

 沼の向こうには、ちらりと三角屋根のてっぺんが見えた。巨大な丸太を組み込んだこの宿、三五郎小屋というらしい。もしもグリム童話にでてくる大男の家が実在するならこんなだろうと勝手に想像したくなる、泊まれる童話。ロッキングチェアに腰掛けて好きな本を読むいつか未来の自分を、さっそく胸内へインプットするわたし。

 ふもとの温泉街では、立ち昇る湯けむりに隠れんぼするような浴場がいくつか佇んでいたから、迷うことなく木箱に小銭を入れ戸前をくぐった。スノコの湯舟からモコモコ湧き上がってくる源泉は、これまさに万傷癒しの湯。
 原始の力を得た心地と、また来たくなるいくつかの理由。明日から始まる日々のなかに、ひと呼吸を置くすべを、“あの”風景が教えてくれた気がする。大丈夫、もう視線は前を向いている。

蔵王トレッキング

住所:山形県山形市上宝沢(ドッコ沼 住所)
アクセス:【車】JR山形駅から約70分。【バス】JR山形駅より「Z90 蔵王温泉」行きのバスに乗車(約40分)、「 蔵王バスターミナル」バス停下車。「蔵王中央ロープウェイ」に乗り換え、「鳥兜駅」下車。徒歩約15分。
*「ドッコ沼」~「不動滝」までは徒歩約20分。

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〒990-8540 山形県山形市旅篭町二丁目3番25号 / 代表電話:023-641-1212
開庁時間:月曜日から金曜日の午前8時30分から午後5時15分 (祝日および12月29日から1月3日を除く)

※部署、施設によっては、開庁・開館の日・時間が異なるところがありますので、事前にご確認ください。
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