【短編エッセイ #15 ゲレンデと温泉/蔵王温泉スキー場】
滑りを楽しみにして来る人の期待を裏切らない、ハッとするようなダイナミックな雪の世界。そんな別世界に、山形市街地から車で30分足らずで辿り着けることにまず驚いた。スキーの名手と謳われたトニー・ザイラーや岸英三が「蔵王」の名を世界に知らしめた昭和の時代から、今もなおスキーリゾートとして指折りにその名が挙がる「蔵王温泉スキー場」。
単独のスキー場としては日本最大の面積を誇る多彩なコースと、雪質抜群のパウダースノーというだけあって、変化に富んだゲレンデを目当てに訪れるスキーヤーやスノーボーダーが、世界各地から訪れていた。
全容は広く、1日では到底遊びきれない広さに戸惑うほど。今回は、蔵王国定公園自然公園の管理人を務める高橋熱さんのプライベートの滑りに交ぜてもらうことに。「スノーボードを思う存分楽しみたいから」という理由で県外から山形の大学に進学し、在学中に蔵王の魅力に引き込まれ定住したひとりである。「滑りのレベルに合わせた多彩なコースはもちろんですが、標高差があるので雪質や見えてくる景色もかなり変わってくるんです。そこが何度でも滑りたくなる大きな理由です」と高橋さん。
ロープウェイに乗って蔵王山頂駅に降り立つと、目の前に広がる樹氷群に心を奪われる。これが、8キロメートルにわたる最長コース「樹氷エリア」か。もっぱらスキー一択の自分は、二本のスキー板をゆっくり滑らせていく。コースの遥か向こうに見える雲と空と山形盆地の風景は、まるで鳥の翼と目線を授かったかのようだ。