【短編エッセイ #10 田んぼの温泉/百目鬼温泉】
ふと、道ばたの花を見て「美しい」と思う心は忘れたくないものだが、せわしい日々が続けばそんな心の余裕は薄れてくるものだ。
日常生活を離れいつもと違う環境に身を置くことで、心や体の疲れが回復すると言われている。この気分転換を「転地効果」と言うらしい。だが日常を離れて…と言っても、そんな時間の余裕もない…。
いや、待てよ。ここ山形はまさに温泉王国と謳われるほど、たくさんの温泉が点在しているんだし、身近にある温泉で非日常を感じることができたら、もっと手軽に転地効果を期待できるんじゃないだろうか…。
青々とした稲が一面に広がる田園を抜けた先に見えてくる、もうもうと立つ湯けむり。蔵王連峰が一望できる露天風呂。豊富に湧き出す高濃度の塩泉はかなり効くよと友人にすすめられて以来、とっぷりとその魅力に浸かってしまったのがこの『百目鬼温泉』
農業用の地下水を掘っていたところ偶然温泉が湧き出でたという珍しいエピソードをもち、“王国”山形のなかでも地元住民や観光客を問わず、広く親しまれる人気の日帰り温泉だ。