【短編エッセイ #08 山形鋳物/GASEN(雅山)】
伝統に磨かれた鋳型作りがなす曲線に唸り、自然の作用と職人の感性をかさねた着色に見惚れる。シンプルな佇まいに潜むのは、野趣と繊細がいり交じった美しさ。
そんな生めかしい質感にハッとする、ブロンズの一輪挿しを目にした。まるで時間を味方にして、果物が熟していくような美しさを放つ『GASEN』の「くだものいちりん」。唐突な山形鋳物との一期一会。
その起源は、およそ950年前の平安時代後期、東北地方で起きた乱を治めるための戦に従った職人が、山形市内を流れる馬見ヶ崎川の砂と付近の粘土が鋳物の型に最適であることを発見し、この地に留まって鋳物づくりを始めたことによるという。
そのさいたる特徴は、精緻な技法による肌と形の正確さにあるといえる。鉄器や銅器がもつ重厚な存在感はそのままに、肉薄な鋳肌をあわせもつ相反の美。使い込むほどに変化するその風合いからは、人として人にしか感じ得ない“わび・さび”や、時空を超えた新しさを感じるのだ。
その一方で、「ものづくりを旨とし、商売を良しとしない」職人気質の傾向も古くからあったとか。分業制をとらずに家々で一から製造を行い、さらに販売までを手がけることが多いため、意匠や個性が多様化。こうした互いの切磋琢磨が、高い品質と精神性のある造形に繋がっていったのかもしれない。