【短編エッセイ #06 山形の新しい食/プルピエ】
到着した駅のデッキで、茜色の空に向かって伸びをする。高揚感と空腹のせいで、あれもこれもと大雑把なリクエストをするわたしに、「ぜひ連れて行きたい“山形の入り口”があるのよ」 友人がニヤリと応えてくれた。期待を膨らませ、しばしの散歩道で話し込む。
揺れる街灯の下でホログラムのように浮かび上がるガラス張りの外観。料理やワインを囲み満悦に包まれる店内は、つぎの料理を待つ間のソワソワした期待感さえ、そこにいる皆で共有しているかのよう。
繁華街を抜けた先に佇む『プルピエ』は、十色の性格をもつナチュラルワインと、地の利が育む食とが出会うカンティーヌ。
首都圏を中心に洋酒のインポーターをしていた経験から、「造り手や土壌の個性が強く映し出されるナチュラルワインのおいしさを、丁寧に伝えられる店をつくりたかった」と語る店主。「飲食店もひとつの流通であり媒体だと考えています。先入観にとらわれず、本当に良いと感じられるものをフラットな視点で伝えられたら」とも。
ワインも食材も、できうる限り何度も生産者のもとに足を運び、納得したものを提供するのが信条だ。仲間と産地を訪ね、業者から聞き取りをし、自らの足で得た世界中のストーリーを、自店に反映させていく。
産地や味の特徴、生産者の人柄やエピソードまでも丁寧に伝える語り口。そこには受け売りのサービスではない温もりがあるのだ。