都市をデザインする(市長)
「デザイン」とは、目的を達成するための計画を立て、人々が理解できるように表現する、一連のプロセスのことを言います。
普段は気付くことのない、山形市の政策に生かされている「デザイン」について、市長と関係者にお聞きしました。
今、それぞれの自治体がまちの魅力を高めるために努力をし、個性を出そうとしています。
まちの魅力を高め、個性を出していくためには、行政だけではなく、市民の皆さんや企業など、それぞれが同じ方向を向いて歩みを進めることが重要です。
行政がビジョンを示し、思いや考えを伝えることでビジョンに共感し、共に行動してくれる人を増やしていく。そうすることで、まちの個性を形づくり、強くしていくと考えています。
山形市のビジョン
山形市は健康医療先進都市と文化創造都市の2つのビジョンを掲げています。山形市の個々の政策課題や政策テーマは、この2大ビジョンに基づいており、いわば、この2つのビジョンの実現が都市デザインと言えると思います。
例えば、中心市街地グランドデザインでは、「歩くほど幸せになるまち」をコンセプトにしています。
このコンセプトは、健康医療先進都市としての大きなテーマである「市民の健康寿命を延ばす」ことから着想したものです。歩くことは健康維持の基本ですが、車社会になり歩く機会が少なくなっている中、中心市街地に居心地が良い空間を整備し、回遊してもらう仕組みをつくることで、歩く機会を増やそうとするものです。
また、山形市では、特に秋になるとさまざまな団体がイベントを実施しています。それを広く知ってもらうために始めたのが「やまがた秋の芸術祭」です。まちなかを歩けば至るところで音楽やアートなどに触れられる、そんなイベントになっています。
これも、歩いてもらう仕組みをつくる、文化・芸術に触れる機会を増やすという点において、2大ビジョンに基づいて行っている取り組みです。
しかし、行政だけで取り組むのは限界があります。ビジョンの実現には行政だけではなく、市民や民間の活力などより多くの力を結集して進めていくことが必要です。
民間活力の活用
やまがたクリエイティブシティセンターQ1
やまがたクリエイティブシティセンターQ1は、文化創造都市の活動拠点として、山形市立第一小学校旧校舎をリノベーションし生まれました。ユネスコ創造都市ネットワークに加盟している山形市を象徴し、文化創造都市のビジョンを体現している施設です。
Q1では、ビジョンを具現化するために、課題を対話によって導き、試行錯誤を繰り返しながら完成形に近づけるという、行政としては珍しい手法を採用しました。
山形市立第一小学校の旧校舎は、以前は山形まなび館として1階と地下だけ使用していましたが、観光や市民活動などさまざまな側面があるために、施設の位置付けが曖昧で、2、3階の利活用も課題となっていました。そこで、ユネスコ創造都市ネットワークの映画分野に加盟したことを機に、文化創造都市の拠点施設というコンセプトを明確に定めました。
コンセプトを決めた後は、行政だけではなく多くの皆さんからご意見を伺うべきと考え、構想を検討する段階から文化創造都市の拠点施設にはどんな機能が必要かなどを文化団体や東北芸術工科大学の方とゼロから議論しました。ある程度の構想が決まった後も、2年間は実験的に活用する期間を設け、徐々に文化創造都市の拠点施設のイメージを具体化していきました。Q1がオープンしたときも、テナントが全部埋まった状態ではなく、運営しながら中身を充実させていくという考え方を取っています。
こうしたやり方は、行政としては非常に新しい手法ですが、ビジョンやコンセプトを具現化していくという意味においては、デザインの手法を効果的に取り入れた一つの好事例として挙げられると思います。結果的に、Q1の場合も当初想定していなかったような良いテナントが入居するなど、思いがけない効果がありました。
Q1が柔軟に対応し、進化していく運営を行った結果、始めは若い方の来館が多かったですが、今は幅広い世代の方に来ていただき、県外から訪れてくれる方も多く見掛けるようになりました。
また、いろんな企業が製品発表会等でQ1のイベントスペースを活用したり、クリエーターと企業が一緒に商品やサービスを開発したり、Q1は文化創造都市の拠点施設として意図した結果が出ていると感じていますが、これこそ施設のコンセプトを具現化するデザインが見事に奏功した結果だと考えています。
Q1はこれからもまだまだ進化していきます。

シェルターインクルーシブプレイス コパル
屋内型の児童遊戯施設としては、市内北部のべにっこひろばに多くの利用者が訪れていましたが、市内全域における子育て支援機能をさらに充実させる上では、南部への新たな設置が望まれていました。
一方、県内各地に屋内型の児童遊戯施設が整備されている中、特徴のある施設にする必要があるとも考えていました。多くの人が集まるまちにするためには、多様性が非常に大事になってくると考えていたことから新しい施設のコンセプトを「インクルーシブ※」と定めました。
インクルーシブをコンセプトにした施設は全国にもあまり例がなかったため、民間事業者から幅広くアイデアを募集し、今のコパルの考え方や建物のプランが選ばれました。
公共施設を整備する際は、設計・建設・運営をそれぞれ別に発注することが多いですが、コパルの場合はビジョンやコンセプトを実現するために、戦略的にPFIという手法を用いました。設計・建設・運営を一括して発注することで、「インクルーシブ」という考え方を建物と運営とが一貫してまるごと体現する施設が生まれました。
コパルは、令和4年4月にオープンして以来、すでに約26万人にご利用いただき、お子さんや親御さんに大変喜ばれています。
また、インクルーシブという考え方を体現した施設として高く評価されており、グッドデザイン賞など数々の賞を受賞したほかに、約1300件を超える視察を受け入れるなど、全国的にも注目される施設となっています。
運営面でも、インクルーシブという考え方に沿った企画やイベントがすでにたくさん行われていますが、コパルは、まさにデザインの力でコンセプトの具現化を果たした施設と言えます。
今後もインクルーシブを体現し、体験していただける施設として運営していきたいと考えています。
※障がいの有無や性別、人種などの違いを認め合い、分け隔てがないこと。
歩くほど幸せになるまち
山形市は、中心市街地グランドデザインの中で「歩くほど幸せになるまち」をコンセプトにし、居心地が良い空間の整備や回遊してもらう仕組みづくり、公共交通の利用促進などを掲げています。
行政がグランドデザインの中でビジョンを示し、自ら積極的な投資や政策を行っていく。そうすることで、新規出店などの民間投資が生まれて、中心市街地の魅力がどんどん高まっていく、そうした流れをつくろうと、ビジョンを示し取り組んできたことがまさに「まちをデザイン」することだと言えると思います。
居心地が良く歩きたくなるまちなかづくり
「歩くほど幸せになるまち」の実現に向けた取り組みの一つが、まちなかを車から人中心の空間へと変える「ウオーカブルなまちづくり」です。
山形駅前大通りやすずらん通り、シネマ通り、七日町大通りなどにおいて、公共空間の有効活用を図り、滞在空間を生み出す取り組みを行うなど、「居心地が良く歩きたくなるまち」の実現に向けた社会実験を行っています。
また、昨年9月には、「おしゃれで居心地良く、利便性の高い空間」をテーマに中央公民館と市立図書館中央分館をリノベーションしました。休憩や打ち合わせができるスペースがあり、「皆さん思い思いの過ごし方ができる場所にしたい」という思いをデザインし、形にしました。
ぜひ、中心市街地にお越しの際には気軽にお立ち寄りいただければと思います。
御殿堰を生かした回遊性のあるまちづくり
山形市では「粋な町 七日町」、通称「粋七」をコンセプトに、御殿堰に沿って景観性の高いまち並みとまちなか回遊の向上を目指した魅力あるまちづくりを進めています。
昨年11月に十一屋七日町本店がリニューアルオープンしましたが、御殿堰を生かした回遊性のあるまちづくりという考え方にご賛同いただき、お店を改築していただきました。十一屋南側の御殿堰整備も着々と進んでおり、3月末には完成します。完成すれば、水の町屋七日町御殿堰、ルルタスと合わせて、中心市街地の顔としてデザインされた非常に魅力ある空間になると思っています。
御殿堰は、山形市の誇るべき重要な歴史資産である「山形五堰」の一つです。山形五堰は、昨年11月に「世界かんがい施設遺産」に登録されました。また、今年は山形五堰の建設から400周年という節目を迎えますので、そうしたこともこれからPRの一つの材料として、しっかり発信していきます。
そうした取り組みを行ってきた結果、毎年10月に行っている歩行者通行量調査の令和5年の結果が、平成21年以来の最高値になりました。
これについては、中心市街地グランドデザインというビジョンをしっかり掲げ、そのビジョンにのっとった積極的な政策を行ったことが重要でした。行政が本気度を示したことで、そのビジョンが民間企業や市民に伝わり、共感を得ることができました。そのことが十一屋のような民間投資や新規出店などにつながり、中心市街地の魅力を高める相乗効果を生み出したと思っています。
レールのない時代に主体的に生きる力をつける教育
未来のまちづくりを担う子どもたちの教育にも力を入れています。
山形市が進める3つの学び
これまでの成功体験が通用しない、不確実で多様な人生の生き方がある今の時代、いわばレールのない時代を生きていく子どもたちには、自分の人生を自分で考え、自ら一つ一つ選択していく「主体的に生きる力」が必要になります。自ら考えるためには、さまざまな知識が必要ですが、知識だけでなく、他者との対話によりいろいろな考えに触れることや、自ら課題を設定して解決のために行動することも重要です。そうした時代を生きる子どもたちに必要な力をつけてもらうために、山形市が進めているのが「主体的で探究的な学び」「個別最適な学び」「協働的な学び」の3つです。その3つの学びを進めるためには、電子黒板やAI型デジタルドリルソフトの活用が効果的であるとの判断から、山形市ではICT教育に力を入れています。
主体的で探究的な学び
3つの学びの中でも、これからの子どもたちに求められるスキルを身に付けるために特に必要なのが、「主体的で探究的な学び」だと考えています。主体的で探究的な学びは、問いを立て、考え、行動する学びと言えます。
これまでの教育は問題を解くことが中心でしたが、これからは、問題を解くだけではなく、自ら課題を見つけることが重要になってきます。自分が感じた違和感、疑問に思ったことの「なぜ」を突き詰めて課題を設定し、解決策を導き出す力が必要になってくると考えています。山形市は、未来ある子どもたちの輝く将来像をイメージし、教育をデザインしています。
誇るべき山形市民のデザイン思考
山形市には東北芸術工科大学があることもあって、デザインできる人材が豊富にいます。一方で、伝統工芸など江戸時代から続く流れも多く残っています。例えば、山形鋳物も単なる工業製品として残っているわけではなくて、商品であると同時に作品であり、職人の作家性が色濃く反映されています。
そうしたところに、市民のデザインを大切にするというもともとの素地があると感じています。
そういう歴史的な流れのある中で、最近では、市内のラーメン店主の有志が設立した協議会が「山ラー」というロゴを作成しました。市内のラーメン店でこの赤いのぼりを見かけたことがある方も多いと思います。
市内にある個性あふれる多種多様なラーメンのPRを統一的に行っていくために「山ラー」というキャッチコピーとロゴを作ったわけですが、これもデザイン思考に基づく取り組みだと言えます。
また、昨年10月、地元のスーパーであるエンドーのげそ天がグッドデザイン賞の金賞を受賞しました。金賞は全国に数多くあるグッドデザイン賞の中でも20件しかなく、東北では唯一の受賞となる快挙です。エンドーが市内のデザイン会社と一緒にブランディングを行ってきた結果であり、デザインの力によって山形市の名物がまた一つ増え、魅力が高まった好事例であると思います。
ユネスコが認めた山形市の多様な地域資源。その地域資源の魅力をデザインの力を活用して高めていく。そうした取り組みをさまざまな主体が行うことで、山形市はもっと文化の香る豊かなまちになるのではないかと思っています。
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